村上信夫

kimikoishi2006-04-01

きょうの料理」の再放送をやつてをりまして、村上信夫が出演してゐました。二十年以上前の映像だと思ひます。

村上は帝国ホテルのフランス料理シェフ頭?といふのか、さういふ偉い職に長年ありました。パリのホテルリッツで修業して、ソ連でも料理を学んだとか。

村上信夫のフランス料理は実にこつたもので、最近の「きょうの料理」とはずゐぶん違ひます。

ミートパイを、パイの生地からいとも簡単さうにこしらへて、簡単ですねッ!とのたまひます。村上氏はとても恰幅がよく、どうして日本人なのにこんなにすごい体になつたのだらうと感心します。

さうして、とても言葉遣ひが丁寧です*1。たまねぎを炒めたあとは、よく冷やしてから、まぜあはせます。かういふ風にやると、よろしいですねッ。簡単ですねッ(全然簡単ではない)と、威勢のよい口調で(神田育ちださうで)、ほれぼれとする男つぷりです。

お顔は開高健のやうで、しかも眼鏡も三十年前のはやりのもので、全体的に古賀政男そつくりで、まつたく美男子ではないのですが、実にかつこよいのです。

村上氏が帝国ホテルにゐたとかリッツにゐたとか、そんなことは関係ないのです。そんなことを誰も知らなくとも、一目置かせる威厳があります。金だの名誉だののつまらない属性で見栄を張る連中とは違ひます。そこにゐるだけで渋い男、ああ、かういふかつこのいい男は減つてしまつたなあと、わたしは歎息することしきりです。

村上信夫氏は次から次へと、ひき肉の西洋料理をいくつも紹介してゐましたが、どれもこれも本格的なものでした。たまねぎをあめ色に炒めるのは必須です。これだけで20分以内にはとてもできません。今は、家庭で、料理にゆつくり時間をかけられる人も減つてしまひました。イイ男は韓国に取られ、生活は昔以上に貧乏暇なしの有様。いつたい、日本はどうなつてしまふのでせう。

それはさうと、本格的な西洋料理をもつと根付かせなくてはならないと、わたしは決意を新たにしました。この頃はやりの創作料理なんてちやんちやらをかしいのです(おいしいのもあるにはありますが)。まづ本物をたべなくては。インスタント食品やへつぽこ料理屋にだまされてはいけません。

しかし、本物を食べにゆく余裕はないので、ここはひとつ自分で作らなければなりません。村上氏の真似をして、よくつくり、よくたべて、村上氏のやうなカーネル・サンダース体型になつてみようと思ひます。

*1:また、村上氏の解説では動詞の種類が実に多いのです。たとへば、ざるにあける、などですが、今の人は単にざるに入れるとしか言はないでせう。今のテレビに出てくる日本人は、使用する動詞がきはめて限られてゐて、実に頭の悪い感じがします。頭のいいのわるいのといふ本が流行してゐますが、動詞が少ない人はあまりおつむがよろしいやうには見えません。わたしも実を言ふとさうなのですが。