記憶その2
わたしは近所の子供と、小さな山で遊んでいました。
小さな山は、わたしが通っていた学校の裏にありました。そして、山の向こうは一面の砂漠です。
わたしたちは木に上っていました。そして、3、4人で猿のように木の上で話をしていました。
わたしたちがしていたのは三色お化けの話です。
三色お化けとは、信号機のように、赤、青、黄色の顔をしたお化けです。
なんだ、それ。そんなものいるわけないじゃないか。
わたしが莫迦にすると、みな、まじめな顔をして、
いるよ。三色お化け。暗くならないと出てこないんだ。
と言うではありませんか。
なにを馬鹿馬鹿しい。三色ってそもそもなんだい。
と、わたしが言うと、
いや、ほんとうに三色なんだよ。顔色が。
と、みなは言います。
あまりにみながまじめな顔をして言うので、わたしも少し怖くなってきました。
砂漠のほうから風が吹いてきます。
木がざわざわと鳴り始めます。
いつしか日が暮れつつあり、街灯の白い光がともっているのが見えました。
そして、周囲には、わたしたちしかいませんでした。
帰ろうか。
わたしが言いました。
そうだね。
皆も言います。でも、誰も木から下りようとはしないのでした。
なぜか、一番先に下りた者が、三色お化けにやられるような、そんな気がしたのでした。
わたしは絶対先には降りるものかと思いました。
風を受けて、木々がざわざわと音を立てます。
いやだな、早く帰りたいな、と思っていました。
三色お化けがどんなものかは分からないのですが、とにかく怖くなってきました。
その時です。
うわあ、と誰かが変な声をあげました。
その途端、わたしたちの緊張は極点に達したのでしょう。一斉に、みな、木からすべり落ちました。
そして、とめてあったそれぞれの自転車にまたがると、一斉にこぎ始めました。
と、余計なことに、わざわざ後ろを振り返った者がいました。
出たあ。
とそいつは叫びます。
わたしは一目散に飛び出るつもりでしたが、どうしても気になって振り返りました。
出たああ。
わたしも叫びました。
あとのことは覚えていません。
気づくと、わたしは食卓について夕飯をたべていました。
三色お化けは、たしかに赤、青、黄のグラデーションの顔をしていました。痩せたおじさんでした。しかし、手を広げて、今にもこちらに迫って来ようとしていました。
でも、三色お化けは、あの山を出られないんだ。
わたしはすっかり安心していました。しかし、あの山にはもう行きたくないなと思いました。
ところが、そんな心配はそもそも不要だったのです。だって、砂漠が後ろに続いている小さな山なんて、その町にはなかったのですから。
その事件の後で、学校で、近所の地図を描きなさい、という課題が出たのですが、あの山はどこに描いたらよいのだろうと、わたしはとても悩みました。