採檳榔

kimikoishi2007-06-24

4月5日の日記で
http://d.hatena.ne.jp/kimikoishi/20070405
で「採檳榔」といふ歌のことを書きました。

この歌は周璇や訒麗君も歌つてゐて、もともとは中国湖南省の民謡ださうです。軽快な曲調で、わたしはとても気に入つてゐます。

高高的樹上結檳榔
誰先爬上誰先嘗
少年郎 採檳榔
小妹妹提籃抬頭望
低頭想又想
他又美 他又壯
誰人比他強
趕忙來叫聲我的郎呀
青山高呀流水長
那太陽已殘
那歸鳥在唱 叫我倆趕快回家郷*1

「檳榔」(ビンラン)はインド、フィリピン、中国南方や台湾など南方の地域で多く見られる植物です。http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AA%B3%E6%A6%94
見た目は細い椰子のやうな感じです。とても背の高い植物で、上のほうに実がなります。

檳榔の実はとても人気があり、これを売ると結構な稼ぎになります。そこで、高い高い椰子のやうな檳榔の樹に登つて、実をとるわけです。

檳榔の実は、フルーツではありません。食べ物ではなく、嗜好品なのです。台湾の町の檳榔屋さんでは、写真のやうに、実を葉つぱでくるんだものが売られてゐます。葉つぱと檳榔の実の間には、少量の石灰が這入つてゐます。五個で五十元(日本円で百八十円くらゐ)が相場です。

これを、葉つぱごとぐしやぐしやとガムのやうにかみつぶすのです。

わたしはこの檳榔にたいそう興味をもちました。檳榔は台灣の町のあちこちで売られてゐます。

でも、あまりきれいな店はなく、また高層の建物が立ち並んでゐるやうなきれいな大通りで堂々と売られてゐることはありません。どちらかといふと、ごちやごちやした通りで売つてゐます。

檳榔売りの特徴は、看板のあたりに、三本の細長いネオンが手の指のやうに配置されて、緑色に光つてゐることです。どれもこれも小さな店で、店をのぞいてみると、たいてい中年夫婦が一生懸命に、せつせと葉つぱに檳榔の実をくるんでゐる光景に出会ひます。

お店によつては「檳榔西施」と言はれる、露出度の高い服装をした若い美人がガラスウィンドウ越しに座つてゐるところもあります。一寸、気軽には買ひにくい雰囲気です。外国人にはよく売春屋と間違へられるさうです。

また、お店によつては「檳榔」と看板にあるものの、煙草を売つてゐるだけで、肝心の檳榔を堂々と置いてゐないところもあります(言へば出てくるらしいのですが)。

ちなみに檳榔は違法ではありません。ただ、購入者はどちらかといふと貧しい階層の人が多いやうです。美観を損ねるといふ理由で、檳榔を苦々しく思つてゐるひとも多いやうで、排撃の声が高まつてゐます。発癌性も指摘されました。

ある意味、煙草に似たところがあります。他人に健康被害を与へない点では、檳榔のはうがましのやうに思へるのですが、あまり、買つて誇ることのできるものではないやうです。煙草は依然として、若者が大人ぶるアイテムとしての力をもつてゐますが、檳榔にはそんなものはないやうです。

ただ、檳榔は台湾の一大産業でもあり*2、美観を損ねるからと言つて、簡単に廃業させるわけにはゆかぬやうです。なんと、檳榔は日本にも輸出されてゐるさうです(染料として使ふのでせうか?)。

わたしは台湾の友人に檳榔のことを尋ねてみました。しかし、檳榔などは台湾の恥部のやうなものだとあしらはれました。もう一人に聞くと、ぜひぜひやつてみるといいですよ。と薦められました。でもそれは、変はつたものだから、ぜひぜひといふ感じでした。微妙な反応から見て、変なものであることはたしかなやうです。

なにより美観を損ねるといふ理由で、檳榔は嫌はれてゐるやうです。また、女性が嗜まない理由もそこにあるやうです。とにかく問題は、この檳榔の作法にあるのです。

*1:高い高い樹にビンランの実がなりました 誰が先によぢ登つて、誰が先に味はふのでせう 男の子がビンランをとります 女の子はかごを頭にかかげて見上げてゐます 頭をさげて女の子は思ひます 彼は美しいし強い 他の誰が彼に勝るでせう 急いでわたしの好きな人に声をかけます 青い山は高く水の流れは長い 太陽もまだ残つてゐます 巣に帰る鳥は歌つてゐます わたしたちも早く帰りませう(直訳は、わたしたちも早く帰らせて)

*2:http://72.14.235.104/search?q=cache:I7a7SOxHwFcJ:www1.stat.gov.tw/public/Data/512614331671.doc+%E6%8E%A1%E6%AA%B3%E6%A6%94&hl=ja&ct=clnk&cd=18&gl=jp