ぽんぽこ

kimikoishi2007-05-09

むかし、ぽんぽこといふお菓子がありました。

ロバ製菓のお菓子です。ロバ製菓は「ひよこ」といふお菓子も売つてゐました。「ひよこ」はつい最近まで売つてゐましたし、テレビで宣伝もしてゐたのですが、ロバ製菓さんは土地投機に失敗して倒産してしまつたやうです。とても残念・・・

もつとも、ロバ製菓の工場を買ひ取つた会社があるやうで、「ぽんぽこおやじ」といふ名前で、少々似た感じのお菓子を今でも売つてゐるさうです。

子供の時、ぽんぽこは憧れのお菓子でした。

ぽんぽこは記憶では、三個入り、六個入り、十二個入りの箱があつたやうに思ひます。ぽんぽこは一つ売りはしません。百貨店などで売つてゐる箱に入つた贈答用の高級菓子でした。

わたしがなによりぽんぽこを愛したのは、ぽんぽこの箱に小さな冊子がはひつてゐたからでした。

その小さな小冊子は「ぽんぽこものがたり」といふ題で、ぽんぽこが登場する絵本になつてゐました。

すごいことには、この「ぽんぽこものがたり」はシリーズものになつてゐて、冊子には号数がついてゐました。すなはち、すべて揃へれば、壮大なるぽんぽこものがたりの世界が完結するのです!!

そして、子供の頃、わたしは本に対してはうるさい注文がありました。

それは、まず一冊完結ではないこと。シリーズものであること、でした。そして、シリーズの他の巻の題名がすべて、一冊一冊の末尾に、こんなのがありますよ。つづけてお読みなさいといふやうに、きちんと表記してあればなほよしと思ひました。

わたしが偏愛した「ぽんぽこものがたり」は、この条件をすべて満たしてゐたのです!

そこで、わたしはぽんぽこものがたりを偏愛しました。

といつても、箱入りのお菓子が家にやつてくる機会など、さうあるはずもなく、ぽんぽこものがたりは二冊しか集まりませんでした。

そこで、わたしはぽんぽこを買つてくれと、両親にねだりました。

両親は渋つてゐましたが、ある日たうとう買つてくれることになりました。

わたしは大喜びです。

ぽんぽこものがたりのつづきが手に入るのかとわくわくしました(つづきといつても、一巻一話完結なのですが)。

眠れぬ夜をすごして(多分すぐに寝たと思ひます。すぐに不眠気味になる現在からみると羨ましい限り)、翌日、わたしは両親と百貨店のお菓子売り場にゆきました。ロバ製菓のコーナーにゆきまして、ぽんぽこを求めます。

三個入りのを一つください。

両親がさういふと、お店のお姉さんはにこやかにぽんぽこを包み紙でつつみ、わたしに渡してくれました。

行儀の悪いわたしは、ぽんぽこものがたりが気になつて、制する両親をよそに、包みをその場であけてしまひました。

…なんと。ぽんぽこものがたりがないではないですか。

わたしはたまげました。お菓子より、付属の小冊子が目当てなのですから、こんな衝撃はありません。

わたしは騒ぎました。ぽんぽこものがたりがはひつてゐないと。

しかし、どうも店のお姉さんの説明によると、ぽんぽこものがたりは三個入りにははひつてゐなくて、六個入り以上でないとくれないやうなのです。

なんと。なんと。わたしは悲しみました。嗚呼、虞姫よ虞よ、汝をいかんせん、ではないですが、絶望して、わたしは落涙しました。今思へばそんなことで、それほど動揺することはないと思ふのですが。

お姉さんはそんなわたしを見かねたのでせう。このくそ餓鬼、とでも思つたのかもしれませんが、ぽんぽこものがたりをそつとわたしに渡してくれたのです。お姉さんはにつこりと笑つてくれました。

破顔一笑。わたしは大喜びです。

お姉さんにちやんとお礼を言つたかは覚えてゐないのですが、くそ餓鬼でしたから、言へなかつたかもしれません。

わたしはいまでもそのお姉さんに感謝をしてゐます。遅くなりましたが、ここでお礼をちやんと言つておきませう。

ありがたうございました。