テルミン

kimikoishi2006-09-07

映画「テルミン」を見ました。

テルミンといふ楽器をご存知でせうか。電子楽器です。二十世紀の新しい音楽として生まれた電子音楽は、クセナキスなどのビヨヨヨヨーンとか、ぶばぶばぶばとか、とにかく表現しようのない電子音を組み合はせた変な音楽ですが*1、その創始者の一人がテルミン博士です。

テルミンは恐怖映画などによく使はれてゐます。「ゲゲゲの鬼太郎」の主題歌(夢子ちやんが出てくる新しいはうではなく、古いはうの主題歌です)でも、ぽよよよよ、といふ人魂が出さうな音を奏でてゐます。たしか、これはテルミンだつたはずです。横山ホットブラザーズののこぎり演奏ではないと思ひます。

テルミンは新しい<楽器>としてつくられたので、音楽の世界で正当な位置を占めるものにしたいと、テルミン博士は思つたさうです。おもちやではないのです。テルミン博士とその周囲の熱心な活動によつて、テルミンのための協奏曲もつくられました。

しかし、実際はゲゲゲの鬼太郎の主題歌のやうに、映画やテレビドラマの恐怖場面の効果音として使はれることがほとんどで、それはきはめて残念なことでした。おかげで、いまやほとんどの人がテルミンなんか知りはしません。

もしうまくゆけば、量産化して、家庭用ピアノのやうに、ギターのやうに、あちこちの家庭に置かれる可能性もあつたさうです。さうならなかつたことは残念なことです。なんともユニイクな楽器なのです。それは、誰でも楽しめたはずなのに(うまく演奏するのは難しいさうです。レーニンはそこそこうまく演奏できたさうですが。)。

ところが、テルミン博士は「テルミン」活動の途中で、ソ連に拉致されて行方不明になります。1920年代のことです。ソ連では盗聴器などを作らされてゐたさうで、ソ連はつくづく恐ろしい国だと思ひます。それは、ロシアになつた今でも。

ソ連は現代音楽など理解しなかつたでせう。ブレジネフだつたか、ある書記長は、ヨーロッパに招かれてシュールレアリスム絵画を見ましたが、こんなもの、子供にだつて描ける、とお怒りだつたさうです。また、パリでムーラン・ルージュを訪れた時も、ズロース一枚で踊るなんて、なんと下劣なダンスだ。モスクワのバレーをパリのやつらに見せてやりたい、と言つたさうです。

テルミン博士は長生きしました。1993年にモスクワで、97歳で亡くなつたさうです。映画は晩年のテルミン博士と接触することができました。テルミン博士は渡米してかつての仲間と再会します。ぼんやりとアメリカの街を眺める姿が印象的でした。

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サア、サアお立会ひ、テルミンで遊んでみませう。
http://theremin.asmik-ace.co.jp/THEREMIN7.html

*1:さういへば、レヴィナス電子音楽について語つてゐました。