飛行機
わたしはときをり飛行機に乗ります。年の人にさう言ふと、なんと贅沢な、とあきれた顔でわたしを見るのですが、昔と違ひまして、飛行機は大変安い乗り物になつてゐるのです。
十年ほど前は、国内の航空機はまだ運賃が高く、そのおかげで乗客も少なく、サーヴィスにも余裕がありました。なんと、昼時などはおにぎりをくれたりしました。わたしが乗つたのはもちろん一等ではありません。それでも、おにぎりをくれました。今はくれません。
いまは、ずゐぶんとだらしない寝巻きのやうな格好で乗るお客もゐます。昔はあまり見ませんでした。
日本人のなかには、飛行機に乗ると、すぐに靴を脱ぐ人が結構ゐますが、これは欧州の飛行機ではあまりなさらないはうがよいと思ひます。電車の地べたに座つてゐるやうな方は、とくに気をつけてください。
また、スチュワーデスを女中のやうに扱ふのもよしたはうがよいでせう。オイ、新聞。と横柄にふるまふ方がたまにゐますが、さういふ方には、メイド喫茶といふものがあります。メイドには慕はれないと思ひますが。
飛行機にはラヂオがついてゐます。そして飲み物を持つてきてくれます。月替はりの宣伝雑誌もあります。これは国鉄の特急列車や新幹線にはないもので(1等にはあるのかもしれませんが)、わたしは大層これを楽しみにしてゐます。
飛行機はうまく席を取ると、たいてい隣の人はゐません。新幹線だとさうはゆきません。異臭漂ふをぢさんが来たりすると(きつと外に住んでゐるひとではないのですが、変な臭ひのするひとは結構ゐます。世の中年諸氏よ。入浴はしませう。タバコを吸ふ人は時々服を干しませう。)、長時間苦しまなければなりません。
しかも、三人席なんかのはじつこの座席になると、廊下に出るのも一苦労です。さういふわけで、わたしは新幹線が嫌ひです。しかも、新幹線には喫煙車があります。これもわたしが新幹線を嫌ふ理由のひとつです。葉巻の香りは好きですが、安タバコの臭ひは苦手です。
もつとも、新幹線は安全で無事故といふ利点があります。また、飛行機に乗る場合、かなり早めに空港に着いてゐなくてはならないといふ欠点があります。
それはさうと、わたしがいつも楽しみにしてゐる飛行機のラジオ番組には、ニュース、イージイリスニング、お子様用音楽、クラシック、演歌、落語、外国最新音楽、日本の最新音楽、ジャズがあります。番組表も用意されてゐます。わたしはいつもクラシックか演歌を選びます。
この前は、外国最新音楽を聴いてみました。ズビビビドドドド*1といふエレキギターを期待しましたが、出てきませんでした。
飛行機のラジオでひとつだけ残念なのは、気に入つた曲が出てくるまで、辛抱強く待たなければいけないことです。45分くらゐでひとまはりしますが、気に入つた曲の場所によつては40分近く待たなくてはなりません。
飲み物も楽しみの一つです。お茶(緑茶)、牛骨スープ、ゆずジュース、りんごジュース、コーヒーがあります。1等では紅茶とパウンドケーキがつくやうです(なんとかシートといふ千円増しの座席です)。
飲み物をくれるといふのは、航空会社にとつては面倒なことでせうが、結構な効果があると思ひます。ものをくれると誰でも嬉しいのです。航空会社によつてはこれを廃止して、運賃を安くしたりしてゐるさうですが、あまり乗りたいと思ひません。乗り物は乗つたあとにあれがよかつたといふ思ひ出も必要で、通勤電車をみなが憎むのは、これがまつたくないからではないでせうか。
あの異常な混雑を何十年も放置しつづけた都市計画の杜撰さにはほとほとあきれはてます*2。諸外国では都市交通の改造があちこちでなされてゐるといふのに、日本は旧態依然のままです。日本人は大胆な改革が苦手なので、余計にさうなるのでせう。