文字禍

ベアード

小林よしのり 目の玉日記』*1を立ち読みしました。

わたしは子供の時、目の玉のことを「めんたま」と呼んでをりました。

わたしは小学生の時に、関東に引つ越してきました(引越しはこの後も続きます)。それまで地方にゐたわたしの言葉は、「めんたま」などのやうに少々変であつたやうで、それを面白がつた同級生が真似して、いつしか鳥インフルエンザのやうに伝染し、燎原にひろがる炎のごとく蔓延してゆきました。

ところが、担任の先生はとてもお堅い女性で、わたしがばらまいた頽廃を大変お嘆きになり、蔓延の根源であるわたし、すなはちエボラ出血熱におけるミドリザルの用ゐるバルバロイ(野蛮人)の言葉を憎み、徹底弾圧にかかりました。わたしはきつく叱られ、向後はいつさい方言を話さないことを厳命されました。

昔は、先生といふものは厳しいもので、父兄もこれに逆らふことはあまりありませんでした*2。わたしはそれでよいと思つてをります。いまは子供をどうも守りすぎです。その結果、逆に子供を守れない共同体をつくりあげてしまつたのではないでせうか。

とは言へ、先生の厳しさのなかでも、どう考へても必要のない因習的厳しさは今も続いてゐます。人格劣悪で、己の権力の誇示しか考へてゐない先生、楽ばかりしたがり、努力をしない先生はたくさんゐて、かういふ手合ひの下についた学生は悲惨なものです。教師の権力をどこまで認めるかは難しい問題に違ひありません。

と、話がずれたのですが、『小林よしのり 目の玉日記』を立ち読みして、わたしは呆然としました。そこに書かれてゐる、小林氏の眼の悪化してゆく様は、まさにいまのわたしの眼の様に(部分的に)そつくりだからです。

小林よしのりは極度の近眼から白内障になつたさうです。わたしも相当の近視で、外に出ると、遠くはすべてかすんでゐます。汚いものが見えてゐる時は、はつきり見えないのは大変便利なのですが・・・

小林氏は目をこすつてゐる人を見ると、止めるやうになつたと書いてゐます。さうです。目がかゆい時は目薬をかけるなり、顔を洗ふなりして下さい。こすると傷がつきます。コンタクトレンズをしてゐるひとは*3、とくに目が荒れることが多いと思ひます。よく洗ふか、目薬(涙成分に近いものがおすすめです)をさしてください。

パソコンで仕事をなさつてゐる方は、本当に気をつけてください。日本人は西欧人に比べて近視になりやすいやうです。それなのに、日本人が眼を酷使する機会は大変多いのです。携帯電話やパソコン、テレビだらけの世界、あちこち文字だらけで、しかも読みにくい日本語の文字いつぱいの世界*4、ごちやごちやと遠景のない世界にわれわれは住んでゐるのです。

しかし、わたしもこの視力でよく頑張つてゐるものだと思ひます。時々不安になるのですが、もしわたしの目がはつきり見えるやうになつたら、この世界は今まで見てゐたのと、はたして同じものなのでせうか? 親しい人も、今まではまるで人間であるかのやうに見えてゐたのですが、実際は容貌魁偉ガーゴイル(ガルグイユ)のやうな生き物だつたらどうしませう・・・

その前に、自分の姿も思つてゐたのとまつたく違ふのかもしれません。桑原桑原。

*1:http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4093890560/qid=1142508486/sr=8-1/ref=sr_8_xs_ap_i1_xgl/249-0211859-6730717

*2:実は、戦前にも、今よくあるやうに、教師が女子学生に助平なことをする事件が多数あつたのですが、教師の立場の強さがあつたために、なかなか露見しなかつたのです。もちろん、昔あつたから今あつても仕方ないことだと云ふわけではありません。おまけですが、山口百恵の「ひと夏の経験」http://www.youtube.com/watch?v=__Hd2_DSbq4。山口百惠のファンは怒るでせうが、丸尾末広山口百恵そつくりのにくたらしい女の子を描いてゐて、それはとても面白かつたのです。

*3:最近、子供にコンタクトレンズを勧めるCMが多いのですが、年端のゆかない子供はそもそも不潔な動物なので、大変危険なことだと思ひます。

*4:路傍の石』や『真実一路』で知られる山本有三は、とても目が悪かつたので、日本語のルビと漢字を憎んでゐました。山本の作品は漢字が少ないやうです。戦前の新聞はルビがふつてあり、学習に便利なのですが(戦前は小学校卒の人でも難しい漢字を読みこなせたものですが、それは自然と覚えさせるような活字社会が用意されてゐたからです)、読みにくいことはたしかでした。わたしは眼がたいそう悪いので、日本語の文字がローマ字に比べていかに読みにくいかが分かります。たぶん、それは形が不均等だからです。