kimikoishi2006-03-17

きのふの夜は、にはかに大雨がふりました。

わたしはあわてて、いつもたづさへてゐる緑色の折りたたみ傘をさしました。

かさのおかげで、わたしはぬれずにかへつてきました。

ぬれたかさをそのままにしておくと、さびてしまふので、わたしはベランダに干すことにしました。

雨はざあざあとふつてゐましたが、明日は晴れるだらうと思つたので、朝までほしておくことにしました。

傘をひろげて、さかさにつるしておきました。

しかし、わたしはあさはかでした。

いつのまにか、外では大雨に加へて、大風がふきあれてゐたのです。

これはいけないと思つて、わたしはあわてて、窓を開けました。

気づくのがおそかつたのです。

傘は消えてゐました。

わたしは外に飛び出しました。

傘が落ちてゐないかと思つて。

うちの真下に来ました。

ありません。

あたりは真つ暗で、大風と大雨がわたしを容赦なく襲つてきます。

ぐるぐると、うちのまはりを探します。

ああ。ありません。

緑色の傘は、ひろげたままでしたから、風に持ち去られてしまつたのでせう。

ああ、どうしたことか。

傘はどこにもありません。

わたしは途方に暮れて、長い年月を共に過ごして、いつもかばんの中に入れてゐた傘のことを思ひました。晴れてゐても、天気予報をまるつきり信用しないわたしは、いつでも傘を入れてうちを出ます。

その傘が・・・

このやうな形で失はれてしまふなんて。

うちの前には、どうどうと水かさを増した川が流れてゐます。

傘はふはりと空を舞つて、ふはふはと漂つて、川に落ちたに違ひありません。

今ごろはどこに流されてゐるのやら。

かばんの中には、もう傘はありません。