雪萬家
富山県では、けふ雪がふつたさうです。三月でだいぶんあたたかくはなりましたが、まだ雪が降るところもあるのですね。
わたしは雪が好きなのですが、それは雪の少ない地方でしか生活したことがないからなのでせう。そして、わたしは寒さには滅法強いのです
(なにしろ、部屋の中から壁の隙間を通して外が見えるような、すかすかの木造家屋に三年住んでゐたのですから。冬でも暖房器具はこたつひとつだけでした。冬の京都の寒さはこたへます)。
さういへば、雪の歌はたくさんあります。
雪の進軍、氷を踏んで、どこが川やら道さへ知れず・・・
は「雪の進軍」で、日清戦争の時の歌です(この歌はたしか女性が作詞したはずです)。
雪の降る町をー
は昭和二十六年ごろの歌でしたか。
Il neige, il neige・・・
といふ「Il neige」(雪が降る)といふ歌もあります。
Tombe la neige・・・
といふアダモのおなじみの歌もあります。
雪といへば、与謝蕪村の「夜色樓臺雪萬家」といふ絵がたまらなく好きです。
(絵の一部は、http://www008.upp.so-net.ne.jp/bungsono/shisoro/s_index.htm で見られます)
この絵から想を得た短編小説があります。倉橋由美子の『幻想絵画館』の一篇、「夜色楼台雪万家」です。この本の中で一番風雅な一篇だと思ひました。もともと、「文芸春秋」に折り込みの蕪村の絵の複写と共に掲載された小説で、わたしはたまたまそちらで読みまして、仙人になつたやうな心持ちがしたものです。
仙人の気分になるには、唐の時代のお話『遊仙窟』がおすすめです。岩波文庫に訳があります。桃源郷の物語、陶淵明の『桃花源記』にすこし似たお話です。