夏の朝

kimikoishi2006-02-24

みなさまは東横電車をご存知でせうか。今は東急東横線と言ふやうですが、昔は東横電車と呼んでをりました。渋谷と桜木町を結ぶ電車です。

わたしは土日に、この電車の朝6時代の電車に乗ることがあります。

土日の朝6時に、桜木町行きの下り電車に乗るのですが、朝と云ふのに、驚くべきことに、いつもすいてゐません。わたしが乗る時、たまたまかもしれませんが。

お客が多いのは、東横電車が澁谷発だといふことにあるのでせう。澁谷の町に朝までゐて、それからかへる人たちが多く乗つてゐるからなのでせう。若い人が多いやうです。

さうして、若い朝帰りの人々はとても薄汚い感じです。お疲れになつて顔色が悪い上に、ゐぎたなく姿勢を崩して寝こけてゐて、しかもお風呂にはひつてゐないからでせう。

もちろん、お仕事の朝帰りのかたもいらつしやるでせう。どんなことをされてお帰りにならうと、それはよいのですが、わたしは電車に乗りまして、座るところが見つからなくて、車内をうろうろしてゐました。

さうしたら、ひとり、とても痩せたをぢさんがゐて、その横はずゐぶん空いてゐました。

わたしはそこに座りました。をぢさんは起きてゐました。わたしは一人分を空けて、をぢさんの横に座りました。

わたしは書類に目を通してをりました。時折、ぼんやりと窓のそとを見てゐました。

集中力のないわたしは、書類に目をやつては、時折頭を上げて、ぼんやりと窓の外を流れる景色を見たりしてゐましたが、ふと横のをぢさんが目のふちに這入つたので、横を少し向いて、をぢさんを一瞥しました。

わたしは仰天しました。

なぜ、気づかなかつたのでせう。をぢさんはピンク色のシュミーズ一枚だけをさりげなく着ていらつしやるではないですか!!

季節は夏でした。ですから、寒くはないと思ひますが、うつすらと下着の透けたシュミーズ一つとは、なかなか挑発的なスタイルです。シュミーズの下から伸びる毛脛は、なかなかイットがありました。

朝帰りのせゐか、をぢさまのやせこけた頬と顎には、うつすらと鬚と髯がありました。髪はすつきりと短髪でいらつしやいました。よくよく見ると、薄化粧をなさつてゐたやうです。

わたしは、汚れただぼだぼの色合はせの悪い服を着て、口をあけてだらしなく寝てゐる若者や中年より、端座してゐるすつきりしたをぢさまによほど好感を持ちましたが、混んだ電車の中で、そこだけ席がずゐぶん空いてゐたのは、をぢさまを敬して遠ざけた人が案外多かつたのでせう。

わたしはまた書類に目をやりました。電車はどんどこ走つて、すこしひなびたところに来てゐました。綱島温泉*1といふとても魅惑的な名前の駅を過ぎたかと思ふと、をぢさまはいつの間にか、ゐなくなつてゐました。

*1:26日に、わたしはまたこの電車に乗る機会がありましたが、なんと綱島温泉といふ駅はなくて、「綱島」でした。わたしの記憶違ひでした。