東方正教会

足利ハリストス正教会

東方正教会キリスト教の一派で、西方のカトリックプロテスタントと二分する勢力を誇ります。ロシア、ギリシャに信者が多くゐます。日本ではあまり知られてゐない宗派かもしれません。ギリシャ語を用ゐてゐるところが、カトリックと違ふところです。カトリックラテン語を用ゐます。

もちろん、教義も大きく異なります。その辺のことは今回は勝手に割愛しますが、東方正教会の教義には、神秘主義的な色彩が強く残つてゐます。建築にもそれが反映されてゐて、そもそも東方の教会はカトリックのゴシックのやうに大きな窓がたくさんあることはあまりないやうです。隠避的な雰囲気があるのは、西方より間違ひなく東方のはうです。もちろん、西方にそれがまつたくないといふわけではありません。

パリの東方正教会のミサに入れていただいたことがありますが、その時はとても不思議な雰囲気に圧倒されました。聖書のギリシャ語(新約聖書はそもそもギリシャ語とアラム語で書かれました)原文と思しきものが、節をつけて読み上げられます。

キリスト教において音楽が占める役割の大きさを感じました。音楽の節は、今の人には伺ひ知ることのできないものとなつてしまひましたが(未開部族と言はれる人たちはこれを今も大事にしてゐます)、もともとは霊的交流に用ゐられた音楽の節が、取り入れられてゐるやうに思ひました。仏教にもそれがあるのですが、さういつた研究があるのかどうか知らず、わたしもぼんやりとしか知りません。

神田のニコライ堂は、日本には珍しい東方正教の教会で、有料ですが、その中を一般の人ものぞくことができます。東方正教ビザンチン様式と言はれる建築をよく採用してゐますが、神田の教会もやはりさうです。とても異国的で、戦前までは神田の丘の上に聳える、なかなか立派な建築でした。いまも明治以来のその建物が残つてゐるのはうれしい限りですが、周囲の汚く大きな建物に囲まれて、いまは戦前の威容はありません。

でも、美しい建物である事は変はりません。なによりすばらしいのはその中です。

神田のニコライ堂には、山下りん(1857−1939)の描いたイコンが納められてゐます。山下りんは最近テレビ番組で取り上げられたので、それを御覧になつたかたもいらつしやるかもしれません。

さういへば、イコンと言へば、かなり古いイコンを、日本でも見ることができます。それは、玉川大学の美術館(教育研究所)のなかにあります。わたしは宗教絵画は美術館より教会にあつたはうがいいと思ふのですが(中世では、絵は建築の一部で、装飾だつたのですから。また、かつて人々の信仰を集めたものは、一般的なものと一緒に扱ふのは良くないと思ふのです)、玉川大学には、いつぺんにたくさんの貴重なイコンが集められてゐるので、それはそれで嬉しいことです。

山下りんのイコンは、足利ハリストス正教会にもあります。わたしは不幸にして、犬に追ひかけまはされたために、中に這入ることができず、イコンは見られなかつたのですが、そのイコンはhttp://www.k3.dion.ne.jp/~kanto_k/asiicon.html
で、見られます。

山下りんは明治時代にロシアのサンクト・ペテルブルグに留学し、イコンを学び、日本で唯一のイコン画家となつたといふ変はつた経歴の持ち主ですが、その一生は大変なものであつたに違ひありません(今もさうですが、日本は、変なものに興味を持つ変はり者には、とりわけ不寛容な国ですから)。

数奇な運命のもとで描かれた多数のイコンは、いまも多くの人に訴へかけてゐます。イコンはもともと画家は書き写す事しか許されず、改変してはいけないのですが、山下りんのイコンは日本語が入つてをり、少々独自なものです。あまりに不思議なものなので、わたしは子供の頃に見たのを今でもぼんやりと覚えてゐます。

残念なのは、日本の東方正教は、カトリックのやうに教会にふらふらと入れてくれるところの少ないことです。ふらふらといれていただければ、いろいろと学ぶこともできるのですが・・・もちろん、無作法な人も多いわけですから、さういふわけにはなかなかゆかないとは思ひますが・・・