えさ

kimikoishi2006-02-16

ヤン・シュヴァンクマイエルチェコアニメーションの監督で、その独特の粘土人形を使つた映画は、日本の活動写真館でもたびたび上演されましたので、日本でもずゐぶんと知名度が上がりました。しかし、まだご存じない方もたくさんいらつしやるでせう。ご存じない方は、かれの映画をぜひ御覧になつてみてください。貸ビデオテープ屋でも、大きな店ならば置いてゐます。

五・六年前は変な映画をあちこちでやつてゐて、飽きませんでしたが、この頃は収益率の低さうな映画はあまり入つてこなくなりました。数年前のはうが小さな活動写真館の状況はよかつたやうに思ひます。

わたしは以前、貸切状態で無声映画カリガリ博士」を観たことがありました。お客はわたしだけだつたのです。がらんとした活動写真館は残念ながらその後なくなつてしまひました。たしかに、あれでは収益もなにもありません。

日本の戦前の映画を常時観覧できた弥生館といふのもありました。銀座にありましたが、そこもなくなりました。新宿にはいつも任侠映画をやつてゐる武蔵野館もありましたが、これも数年前になくなりました。最近は、どうやつてお金を稼いでゐるかわからない商売の消える速度が急であるやうに思ひます。

さて、シュヴァンクマイエル(シュワンクマイヤーとも表記しますが)の映画には、特徴的なものがいくつかありますが、きはだつものの一つに「たべもの」があります。

シュワンクマイエルの描く「たべもの」は、まさに「えさ」と称するのがふさはしいやうな代物で、ちつともおいしさうには見えないのですが、なんといふのでせう。五感全体が刺激されるやうなものとして描かれてゐるやうに思ひます。その点では、おいしさうです。普通のおいしさうとは異なる意味で。

さういへば、インドやインドネシアでは、たべものは手でたべますが、彼らは白人が手を使はないで食事をすることを、あざ笑つてゐるさうです。

手を使はない? それはなんと勿体無いことだらう。食事の楽しみの一つは触感にあるのに・・・

カレーを手でたべるのは、じつに楽しいものです。ただ、日本ではその後、なかなか指が乾かないので、少々気持ち悪いかもしれません。

わたしはフランスパンが好きですが、それは、がしりとつかんで、わしわしとかみくだく楽しさにあります。わたしの食の嗜好はおそらく「原始的」なのでせう。でも、西洋でも昔は手で食べてゐたのです。近世に至つても、まだ手でたべてゐたのではなかつたつけ。

シュワンクマイエル映画の定番たべものに、ぼそぼそとした「ライ麦パン」、貧相なソーセージが一本はさまつただけの「ホットドッグ」(ケチャップがついてゐます)、日本では今や子供すら見向きもしない、懐かしの「粉ジュース」(溶かすと泡が立ちます。かぎりなく甘さう。厚いガラスの薄汚れたコップに入つてゐます)があります。

チェコの人々は、今でもそのやうな貧しさうなたべものをたべてゐるのでせうか。さすがにそんなこともないのでせうが、でも、わたしはこれが大変気に入つてゐて、いつかたべてみたいものだと思つてゐます。さういへば、粉ジュースはいまでも日本の駄菓子屋で売つてゐるのでせうか。昔のジュースは粉でなくとも甘かつたものです。

写真は、フランスのスーパーで売つてゐる子牛シチューとごはん(ごはんは日本では主食なのですが、どうやらこれは野菜感覚で付いてゐるもののやうです)のインスタントセットです。一見、えさみたいですが、おいしいです。そのかはり、あまり値段も安くはありません。入れ物はえさといふ感じですが、味はなかなか豪華です。

ところで、電子レンジであたためる、立派に一食となるやうな、かういふ簡便食は日本にもあるのでせうか? おかゆやごはんのかういふのは見たことがあるのですが・・・