タロット

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トランプは英語でtrumpと言ひますが、この言葉には切り札、奥の手、頼りになる人といふ意味もあります。これだとよい意味なのですが、派生語のtrumperyは、見掛け倒し、つまらないもの、たはごと、といふ意味です。

フランス語のtromperはだますといふ意味で、英語のトランプはここから派生したものではないでせうか。すなはち、見掛け倒し、つまらないものといふ意味が元々のもので、切り札などはあとから出てきた意味ではないかと思ひます。

となると、切り札や奥の手なんていふものは、そもそもがはつたりでしかないといふことなんでせうか。実際さうかもしれません。

トランプの起源は14世紀末より少し前、といふことになつてゐるやうです。現在のトランプの意匠は、16世紀にフランスのルーアン出自のもののやうです。

占いに用ゐられるタロットカードは、14世紀末に西ヨーロッパに入つてきたジプシーがもたらしたものですが、これとトランプは実によく似てゐます。

トランプとタロットのどちらが先にあつたものかはわかりませんが、そもそもjouer(遊ぶ)は「賭け」といふ意味なのです。運命に賭ける点では占ひカードも遊ぶカードも同じものなのでせう(トランプはフランス語でcarte a jouer)。

トランプのジョーカーは当初は存在しなかつたカードですが、これはタロットの「愚者」ださうです。

タロットはタロックとも言ひますが、タロットとは古代エジプトの「トート神の書」といふ意味です。トート神は冥府の裁判の書記で、呪術と筆写の発明者として、ギリシャで崇められました。死者の渡し守(カロン)でもあります。冥府の王の言葉を書き写すことで、王の発する言葉を簒奪した闇の権力者となりました。すなはち、呪術の王です*1

わたしはいんちき占ひ師として、昔友人に頼まれて何度かタロット占ひをしたことがあります(無料です)。不思議なことに、ナカナカ良く当たりました。しかしながら、ある時、あまりよくないことを当ててしまつたために、それ以来やめてしまひました。

タロットはマルセイユのカードといはれるものが、図柄が中世の絵のやうで、気に入つてゐました。ずゐぶんたくさんの図柄があり、中国風やクリスチャン・ラッセン風のものもあるやうです。仙人やイルカでは、どうみても、タロットといふ感じではないのですが。

タロットは錬金術をあらはしたものだとも言はれてゐて、象徴を読み解くことが占ひの鍵になつてゐるやうです。したがつて、骸骨が鎌を持つた「死」のカードが出ても、そのままずばり不幸、死を意味するとは限らないわけです。

わたしは占ひをするのはよいのですが、されるのは大嫌ひです。なぜならば、悪い占ひの結果が出ると、面白くない気分になるからです。さうして、その面白くない気分がそのとほりの結果を生むことになり、かへつて占ひをしなかつたはうがよかつただらうと思ふことが、ままあるからです。

*1:トート神のことはプラトンの『パイドロス』に記載があります。