ハイオク入りセダン一号とSNCF誇るTGV

kimikoishi2006-01-19

生きてあらばのぞみもあるとおほせつるそのことばさへむなしと思ふ

といふ片山広子*1の歌がありますが、生きてゐるといろいろと新しい世界の事実にぶつかり、驚くことが多いものです。

わたしはこのあひだ、「ハイオク」の正しい意味をはじめて知りました。

ハイオクはみなさまご存知でせうか。さうです。ガソリンスタンドにありますね。ガソリンの一種です。

わたしはこのハイオクが長年、気になつて仕方がありませんでした。

調べればすぐに分かることですが、何だこれは?と思つた瞬間に、そのことは忘れてしまふのが常でしたので、ハイオクを調べる機会はなかなか訪れませんでした。

レギュラーはまあ文字通り、普通のガソリンのことなんだらうなと分かつてゐました。なにしろ「レギュラー満タンで」といふ言葉くらゐは、かねがね聞き及んでをります。満タンのタンは牛の舌ではなく、花札の青タン赤タンでもなく、燃料タンクのことなんだらうなくらゐ予想がつきます。

ところが、ハイオクとはいつたいなんなのか? さすがに、廃屋でないことは分かります。しかし、それ以上、手がかりがありません。オクとはなにか?

ハイオクはしかもお値段が少々張るやうです。レギュラーより遥かに高いのです。お金持ちの愛好品に違ひないことも分かります。

きつと、「ハイオク」とは、それを入れたら車がとてつもなく速く走るやうになる、所謂一級ガソリンに違ひない。わたしが下した結論はかうでした。

日本酒にも一級酒があります。ドイツの葡萄酒にはmitがつくものがあります。汽車・汽船にも1等・2等があります。ガソリンにも一等があるんだらう。わたしはさう思ひました。

絵に描いたのは、最高時速500km以上のTGVと、ハイオクを入れた国産自家用自動車「セダン一号」の闘ひです。

ハイオク入りのセダン一号は、勇躍してこの闘ひに臨みます。なにしろ、レギュラーといふ安物ではなく、けふはハイオクガソリンをおごつてもらつたのです。巴里野郎、馬鹿野郎*2ごときに負けてなるものか。

一方、TGVは余裕の表情。何といつても、世界最高の鉄道技術を誇るフランス国鉄SNCFの雄です。セダン一号を一瞥して、C'est un type formidable! と一言。相手を持ち上げてみせる余裕綽々さです。

サテ、闘ひの火蓋は切つて落とされました。

猪突猛進、韋駄天のごとくセダン一号は疾駆します。TGVはセダン一号の勢ひに仰天し、慌てて後を追ひます。

TGVはフランス国鉄の誇る特別急行列車とは言ふものの、ハイオク入りセダン一号の威力には及ぶべくもありません。後追ひに終始して、つひに一度たりとてセダン一号に尾を見せることはかなはなかつたのでした。

TGV氏、試合後は憤然としてをられました。セダン一号なんかに負けるとは、と憤懣遣るかたない表情であります・・・

ところが、ハイオクについて聞いてびつくり。事実はさうではないのでした。

どうやら、ハイオクガソリンでないといけない特別の車があるんださうですね。普通の車にハイオクを入れたらこはれるさうです。

わたしは排気量10000CC以下のスーパーマシン愛車スーパーカブに、このハイオクをうつかり入れるところでした(無人給油所があるのです)。ハイオクを入れたら高速道路を走ることも不可能ではないと意気込んでゐたのですが・・・

*1:片山広子(1878‐1957)は歌人で、芥川龍之介が懸想した人として知られてゐる。娘の総子は昭和初期の新興芸術派文学運動に宗瑛の名で参加してゐる。この人には堀辰雄が懸想した。芥川も掘もふられたさうです。片山広子は、荒俣宏がお好きなダンセイニやフィオナ・マクラウドなどのアイルランド文学の翻訳家としても知られてゐる。そつちのはうが有名か。アイルランド文学の紹介者としては「松村みね子」を名乗つてゐる。最近ちくま文庫からマクラウドの『かなしき女王』が復刊された。http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4480421262/qid=1137634567/sr=8-3/ref=sr_8_xs_ap_i3_xgl15/249-0234103-8337130 フィオナ・マクラウド(1856‐1905)は女性名であるが、本名ウィリアム・シャープで、男性である。スコットランドグラスゴー生まれで、ゲールの古譚に親炙した。本名でオカルト研究をする傍ら、マクラウドの名でケルト文化復興の活動を始めた。日本の能を高く評価したイエイツと共にケルト文化復興活動の雄として知られる。

*2:丸山明宏(美輪明宏)作詞