パン屋さん
わたしはフランスパンが好きです。
なぜならば、それは思ひ切り堅いからです。
わたしは堅いものを食べると嬉しい気分になります。いぬだつてさうでせう。
パリで、思ひきり固い、わらじのやうな肉をたべて、おやしらずの虫歯を思ひきりひろげてしまひ、激痛に苦しんだ経験がありながら、
また、思ひきりかたいパンを食べて、犬歯の先がばりりと音を立てて割れた経験がありながらも、なほ、
わたしはかたいものをたべるのが好きです。
ところが、日本では、かたいものをたべる習慣がいつしかなくなつたやうです。これはとてもよくないことなのではないかと思ひます。
もつとも、昔から、日本人はかたいものはあまり好きではないのかもしれません。でも、昔はまだおせんべいのやうなかたいものがあつたものです。いまのおせんべいは昔よりやはらかです。
それはともかく、かたいものを探すのに、わたしはじつに苦労してゐます。
フランスパンもおいしいものは近所に売つてゐません。京都には、おいしいパン屋さんがあちこちにありました(変な店もありますが)。わたしのゐなかにもあります。でも、いま住んでゐる帝都のわたしのうちの近くには無いのです。袋詰のぼそぼそとした思ひきりやはらかいフランスパンならあります。
西洋人は、日本人がフランスパンをビニール袋につめてゐるのをみて、びつくりするのではないでせうか。そんなことをしたら、せつかくのパンがふにやふにやになつてしまひます。
わたしはかたいものをさがしまはつてゐます。そのうちイヌのガムでも買ふかもしれません。
写真は、パリ三区にあるパン屋さんです。フランスパンの一番安いのは日本円で70円しませんでした。日本のフランスパンは高いです。あまりたべる人が多くないからなのでせう。万病を防ぐフランスパンなのに。
ただし、『美味礼賛』のサヴァランによると粉でできた食べ物は太るさうです。