ぶたに乗つて

kimikoishi2005-05-04

写真は自慢の爪楊枝入れです。とても気に入つてゐます。


わたしはこのぶたに乗つて、遠くを旅するのが夢です。このごろは生活をしてゐても、心ここにあらずで、ぼんやりと遠くばかり見てゐるやうな気がしてゐます。


けふもそんな具合で、つましい食事を終へたあと、お茶をのんで、わたしはぐつたりと窓に凭れてゐたのでした。


月の綺麗な夜です。窓は左右に開け放たれてゐます。もう、寒い季節は終はつてゐました。時折ここちよい、すずしい風がはひつてきます。


わたしはぼんやりと月を見てゐます。
部屋の明かりは蝋燭だけです。蝋燭のあかりがわたしの影をつくり、かべにおおきく写してゐます。時折影はゆらゆらとゆれてゐるやうです。


わたしは窓に凭れて、時折顔をなでゝゆく風をたのしんでゐます。お茶をいくらのんでも、からからの心ではありますが、目だけは力が残つてゐて、月影をじつとみつめてゐました。


じつと月を見てゐると、わたしは光のなかに包まれるやうな気分になつてきます。眠く、それはそれはけだるい夜です。


わたしはしばらく眠つてゐるやうな起きてゐるやうな、たまらなく物憂い時間をすごしてゐましたが、ふと光のなかに、なにかちひさな黒いものがあるのに気づきました。


はじめは、気のせゐかと思つてゐました。なにしろ、わたしは強い近視ですので、ちらちらと黒いごみのやうなものが光のなかにはひるのはしよつちゅうなのです。


それでも、その黒いものは、どうやら気のせゐではないやうなのです。うんと遠くから、なんだかちいさなものが、たしかにこちらに向かつてきてゐるやうです。それは、どんどん大きくなつてくるではありませんか!


あつ!


さうです。


立ち上がりかけて、わたしは気づきました。
それは、わたしが日ごろ手元に置いてゐた。爪楊枝ぶただつたのです!!