ケーキ類

国内線の飛行機に乗つた時のことです。荷物検査の門をくぐつたのですが、係員の方にいきなり「かばんのなかにけいきるいはおもちですか?」と聞かれ、びつくりしてしまひました。


「けいきるい」とはいつたい何でせう? わたしはいつも意識が半分くらゐしか目覚めてゐないやうな状態の、ぼんやりした頭で暮らしてゐますので、咄嗟に言はれた言葉の意味がまるでわかりませんでした。


「ケーキ類」? それならじつに嬉しいことですが、生憎かばんのなかにはそんな良いものは一つも入つてはゐません。


「軽機雷」? それはたしかに入つてゐたら危険です。テロリストか間諜らしくていいですが、まさかそんなものを入れたかばんを、うかうかと係員に差し出すやうでは、あまり優秀なテロリストではありません。


などと、下らぬ連想を数秒の間してみたあと、どうやら「計器類」とおつしやりたいのではないかと推察できました。


しかし、「計器」といふと、羅針盤や圧力計のことでせうか。そんなものを持つてゐさうに見えたのか、かばんのふくらみからそのやうに判断されたのか、なんだかわかりませんが、とにかくそんな大仰なものは持つてゐないのです。


と、再び数秒考へたのちに、機械なら何でも良いだらうと思ひ、電話が入つてゐます、とこたへました。係員は鈍い人間の答えを辛抱強く(七秒ほどですが)待つてくれたあと、ふむふむとうなづいて通してくれました。「計器類」で係員の方が期待してゐたのは、いつたいなんだつたのでせう?