西洋館

このやうなうちに住みたいです。いまはかういふ家があまりなく、さみしいです。とくに、しづみがちな時に。

写真の建物は化粧品屋で、もともと上野にあつたもの。いまは「江戸東京たてもの園」にあります。
「江戸東京たてもの園」http://www.tatemonoen.jp/
此処には、大正末の文化住宅もあります。文化住宅もおしやれで気に入つてゐます（ただしあの天井の低い、狭い西洋館は夏は相当暑苦しさうでした）。その他、昭和十一年の二・二六事件で叛乱軍に襲はれた高橋是清蔵相の邸もあります。明治のものなので、硝子技術が悪く、歪んでゐたのが印象に残つてゐます。偉い人の屋敷なのに、わたしが一番最初に住んだ家と、広さはあまり変はらないのには、驚きました。今の偉い人のはうが、いかにも「金持ちの家」らしい家に住んでゐますね。

他にも、懐かしい銭湯もあり、小間物屋も酒屋もあり、文房具屋に化粧具屋もあります。もちろん商売はしてゐないので、無人です。実際に商売をしてゐたら、もつと楽しいのにと思ひました。わたしが住んで商売をしたいです。

戦後いつから普請の装飾を止めるやうになつたのでせう。いかにも大量生産品としか呼びやうのない無機質なものを継ぎ合はせた建築は、わたしは好みではありません。アルミサッシが這入つてきてから、其傾向に拍車がかかつたやうに思ひます。
もつとも、さういふ無機質な現代建築をお好きな方も多いやうなので、それが駄目だといふのではなく、単にわたしの好みではないといふことなのです。建築の美は無駄にある、がわたしの理想でして、それは今は受け入れられないのだと思ひます。