シャボテン

kimikoishi2007-04-06

昨今の桜花爛漫と時を同じくして、シャボテンの花が咲きました。御覧のとおりの白い花です。

シャボテンといっても、これは多肉植物です。多肉人間ではありません。多肉植物です。

とげのないふっくらした葉で知られています。ここに水がたっぷり入っているので、乾燥した砂漠でも平気なのですね。

龍胆寺雄によると、シャボテンは最も進化した植物だそうです(『シャボテン幻想』北宋社刊)。どうも人間の感情をも読み取る力があるとかないとか、シャボテンに対してそんな実験を試みた人もあるらしいです。

そういえば、こんな話もあります(自己啓発系の本によく出てくる話だと思いますが)。

二つの鉢にそれぞれ植物の種をまいて、別々のところに鉢を置きます。

そして、一方の鉢には、お前なんかどうせろくなものじゃあないんだ。くたばっちまえ。と声をかけます。もう一方に対しては、よしよし、大事なお前。しっかり見守っているから、安心して立派な花を咲かせておくれ。と声をかけます。

そうすると、罵倒された方は、ひょろひょろとした花が咲いて、褒めちぎったほうはよい花が咲くそうです。本当かどうかは分かりませんが、植物にはたしかに神秘的な力があると思います。そして、シャボテンは普通の植物以上に感受性が鋭いと云います。

うーん。シャボテンがねえ、とお疑いの方でも、何千年も生きている大木であれば、なんだか人間とは違った思惟だか意志のようなものをもっているかもしれないと感じられるのではないでしょうか。

わたしは生きている間に、一度は、樹齢幾千年の屋久島杉を見てみたいと思っています。

シャボテンのテレパシーの話については、証明のしようのないことですので、へー、そうなのかあ、と思うくらいにとどめておくべきことなのかも知れませんが、わたしの場合は確実です。

皆様がわたしを褒めてくだされば、かならずきれいな花を咲かせて御覧に入れます。シャボテンより確実なること請け合いです。さあ、さあ、褒めてください。

それはともかく、写真の多肉植物は、二十年も前から、うようよと伸び続けているすごい代物です。うちには、シャボテンと多肉植物が数種類ありますが、どれもこれも元気で長生きです。八年未満のものは一つもありません。

わたしがはじめてシャボテンを買ったのは子供の頃のことです。

たまたま、藤子不二雄の『魔太郎が来る』というおぞましい漫画本を読んでいたのですが(友人から借りたのだと思います)、そこにシャボテンが出てきたのでした。

主人公の魔太郎は小学生なのですが、いじめられっこで誰にも心を開きません。しかし、なんとシャボテンだけが魔太郎と心を通わせるのです。

わたしは驚きました。そして、いじめられっこではありませんでしたが、葛藤の多い子供であったわたしは、シャボテンと心を通わせてみたくて仕様がなくなりました。

『魔太郎』では、そのシャボテンは鬼畜のいじめられっこによって惨殺されるのですが(嗚呼、思い出したくない漫画のシーンを思い出してしまった)、そんなことはわたしにとってはどうでもよく、とにかくシャボテンが欲しくて仕方がなくなりました。

そこで、シャボテンを買いにゆきました。シャボテンはいろいろな形のものがありましたが、選びに選んだ末に、「白閃」という名の白い毛の細長いシャボテンを買ってきました。

そして、シャボテンの飼育法の本も買ってきました。わたしは凝り性なので、子供の癖に、観賞魚飼育法の本やトマト栽培の本といった大人の専門書を読破していました。外科手術に興味を持ったこともあり、外科手術にどんな器具を使用するかという小冊子(医学書は高いので一番安いのを買ってもらって、たまたまそんな本になりました)を買ってもらったこともあります。

それはそうと、わたしの「白閃」は背丈30㎝でした。さっそく、わたしは観察ノートをつけ始めましたが、これは馬鹿げていました。一週間は書き続けたのですから、それだけは偉いことであったと言えるでしょう。

しかし、ノートをつけようという考えは馬鹿げていました。シャボテンはちっとも変化しなかったからです。

でも、「白閃」は、今もわたしとともに生きています。背丈も1mを超えています。長い間に少しづつの変化しかしないのですが、ピンク色の花を咲かせたことも何度かありました。

ちっとも変わらないのは、わたしにしても同じなのかも知れません。「白閃」もきっとそう思っていることでしょう。

お話の最後に、シャボテンを育てる秘訣を話しておきましょう(おっと、期待をしてもらっては困ります。専門家の方、園芸に詳しい方は読み飛ばしてください)。シャボテンを枯らしたという話をよく聞きます。しかし、シャボテンほど育てやすい植物もないと思うのです。秘訣さえ守れば、あなたといつまでもシャボテンはありつづけることでしょう。

その秘訣とは、水遣りを適度にして、日に当てることです。それだけです。おっと、帰ってはいけません。何も売りつけませんからご安心を。

シャボテンを枯らす人は、水を思い切ってやりすぎるか、やるのを完全に忘れてしまうかどちらかだと思います。普通の草花にあげるように、しょっちゅう水を上げてはいけないのです。でも、ぜんぜんあげないわけにもゆきません。

定期的に、適度に水をやること。その周期をシャボテンとともに共有するのです。ともに生きるとはそういうことです。(完)