幽霊

kimikoishi2005-07-02

わたしは引越しをしました。新しいアパアトで友人としやべつてゐます。友人は引越しを手伝つてくれました。
でも、そこに何時のまにか35−40くらいの不細工ではないが、美人でもない、そして見たこともない女が混じつてゐて、話に加はつてゐるのです。


三人で、話がひとしきり盛り上がつたのち、ところで、と、わたしが切り出しまして、


あなたどこからきたの? 窓も閉めてあるし、戸も閉まつてゐるし・・・
ひよつとして、あなた幽霊でしょう?


といふと、その女はとても動揺しはじめました。


友人も、きつと窓から抜けてきたんだらうと笑つてゐました。


女があまりにもリアルで、幽霊に見えないから、変だと思ひながらも、
なんだか怖くはないのです。
女のはうも動揺してゐるだけで、いつかうに襲つてくる感じではないのです。


とにかく、女は帰つてしまひました。あの人はなんだつたんだらうねと友人と話しながら、
テレビジョンのスイッチをつけたら、
殺人事件のニュースをやつてゐました。すると、あの女の写真が画面に写つてゐて、
アナウンサアが、これは殺されたホステスだと言ふではないですか。


わたしと友人は凍りつきました。


アパートの六階に住んでゐるをばさんが、わたしたちの話を聞く前に、
じつはわたしの部屋の隣の部屋に幽霊が出るさうで、
その幽霊は、もともとこのアパアトの住人だつたのですが、殺された今も住んでゐて
時折、現はれては、ぶつぶつなにか言つてゐるんだと教へてくれました。


そのおばさんはもう出てゆくといつてゐました。さばさばするわ、なんて言つてくれました。
引越し早々のことで、わたしは途方にくれました。


そして、どうにもかうにもしやうもない、うんざりした気分で、
わたしの部屋の前に友人と戻つてみると、隣の部屋の戸の前に例の女がゐて、
視線の定まらない目をして、何かぶつぶつと言つてゐました。


わたしはその横で、部屋の鍵を開けたのですが、
その女は、さつき一緒にしやべつたばかりなのに、こちらを見もせずに、
まつすぐ虚空を見つめながら、何かぶつぶつ言つてゐます。


参つたなあと思ひながら、部屋に這入りました。


友人は一人で自分のうちに戻ると、どうもあいつがくつついてきそうだから、
泊めてくれと言ひました。
わたしも、むしろ今日は友人にゐてほしかつたので、願つたりかなつたりでしたが、
しかし、これからどうしたものかと途方にくれました。


ちなみに女の名前は円城寺です。